最終更新日:2023年11月10日
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意外に思われる人もいるかもしれませんが、飲食店の経営には必ずしも『調理師』の資格は必要ありません。調理師免許はあるに越したことはありませんが開業において必須の資格ではないのです。では飲食店の経営に必須の資格とはいったいなんなのでしょう。ここでは、飲食店の経営に必要な資格や開業の手続きについて詳しく紹介します。
『食品衛生責任者』とは、読んで名の通り『食品』の作業環境における『衛生』管理の責任者のことです。飲食店の開業及び設置において必須の資格で、食品を取り扱う施設では、施設ごとに営業許可を取り、最低1名以上の食品衛生責任者を配置する義務があります。
食品衛生責任者は、店舗などの食品を取り扱う作業環境の衛生管理が仕事です。主な業務として、施設の設備の管理・点検や、不衛生箇所の管理・是正、体調不良なものを働かせていないかなどの従業員の健康管理、手洗い・清掃・冷蔵庫の温度管理のチェックなどの衛生管理表の作成、食材の加熱温度や保管場所などの環境の管理のチェックなどを通して、店舗施設において食中毒や食品衛生法違反を出すことのないように、食品衛生作業上の管理運営を行います。
良く似た名前の『食品衛生管理者』とは、特定の食品を製造等する施設に1名置く必要のあるもので、主に製造工場などの衛生管理を行います。ちなみに、経営者が自ら作業場の衛生管理をする必要はなく、従業員がいれば管理を任せることもできます。上記を含めた作業場の衛生管理がきちんと履行されているかを管理、指導することが重要な仕事です。
食品衛生責任者の資格の取得方法はいたってシンプルで、各都道府県等の食品衛生協会において、6時間以上の所定の養成講習会を受講・講習後に自治体に申請して任命されます。
また、栄養士、調理師、製菓衛生士及び畜場法に規定する衛生管理責任者または作業衛生責任者、食鳥処理衛生管理者、船舶料理士、食品衛生管理者、もしくは食品衛生監視員となることができる資格を有する者などの資格を既に持っている者は、上記の講習会を受けなくても自治体に申請して食品衛生責任者に任命されることが可能です。
一部前述しましたが、食品衛生責任者の資格は、各都道府県等の食品衛生協会において、6時間以上の所定の養成講習会を受講することで有資格者になることができます。ただし、受講しただけでは有資格者になっただけなので、その後に自治体に申請して初めて任命されることになります。
食品衛生責任者の講習内容は、飲食店経営で最も重要な衛生法規(食品衛生法、施設基準、管理運営基準、規格基準、公衆衛生法規等)について2時間。食中毒を防ぐための基礎を学ぶ食品衛生学(食品事故、食品の取扱い、施設の衛生管理、自主管理等)3時間。そして公衆衛生学(伝染病、疾病予防、環境衛生、労働衛生等)1時間の計6時間(テスト含む)です。費用はほとんど全国一律で1万円です。講習の受講後は講習受講の証明書となる修了証書を受領します。飲食店の営業許可申請のときに必要な証明書になるため、無くさないように注意しましょう。
また、既に栄養士、調理師、製菓衛生士などの所定の資格を保有している人は、講習を受講する必要はなく、自治体に申請することで任命されます。
食品衛生責任者の任命が終了し、飲食店業務が稼働した後も、数年に1回程度の定期的な衛生関連の講習の受講が推奨または義務となっています。
飲食店の開業に必要な資格として食品衛生責任者のほかに『防火管理者』資格があります。大概の飲食店では調理の際にガスコンロなどで火を使います。火の取り扱いを注意して、火事を起こさないように防火の管理をする責任者が読んで字のごとく防火管理者なのです。
防火管理者は飲食店に限らず、不特定多数が出入りするすべての火を使う業種で必要になりますが、施設の規模によっては不要な場合があります。飲食店の場合は店舗または建物全体の収容人員が30人以上の場合に選任が必要になります。延床面積の広さによって必要な資格が異なり、300平米以上の場合は「甲種防火管理者」、300平米未満の場合は「乙種防火管理者もしくは甲種防火管理者」が必要になります。
防火管理者とは、防火管理業務を適切に遂行する「管理的、監督的地位」と、防火管理に必要な「知識・技能」を有している必要があり、避難経路や火災報知器などの不備が原因で火災が発生した場合に、死傷者が出た場合は責任をもって対応するきわめて責任重大な立場です。
防火管理者は比較的取得の簡単な資格で、資格取得には各地の消防署などが実施している講習会を受講する必要があり、その合格率はほぼ100%です。受講費は実施する主催団体によって異なり、テキスト代として3,000円~5,000円程度必要になります。財団法人日本防火協会が実施する場合は甲種6,170円、乙種5,140円、5年以内ごと実施の甲種の再講習は5,140円で講習期間は通常甲種は2日、乙種は1日となっています。
飲食店開業にあたって必要な資格は理解できました。しかし、資格者がいるだけでは開業はできません。飲食店開業にあたって必要な手続きを見ていきましょう。
必要な資格を取得したあとは、飮食店開業のためにどんなお店でも必ず申請する必要がある営業許可が4つあります。飲食店営業許可、防火対象物使用開始届、火を使用する設備等の設置届、防火対象設備使用開始届です。
1つ目の『飲食店営業許可(食品衛生許可)』は店舗の最寄りの保健所に申請することになります。申請書類は最寄りの保健所で貰えます、または自治体のホームページからダウンロードすることも可能です。店舗の工事が終わる10日前あたりに提出の必要があります。施設の完成後に申請者本人が立会いの元、保健所検査が無事に終了したら保健所から営業許可書が発行されます。
一番大変な検査にあたっての要件は厳密に定められています。たとえば、流しの数が2つ以上あることと、そのうち1つ以上の流しの大きさが横45cm、縦36cm、深さ18cm以上であることが必要なうえ、双方の流しにかならずお湯と水の両方が流れるようになっていなければなりません。従業員用の手洗いは、必ず調理場内に必要です。大きさは横36cm、縦28cm以上が基準なうえ、消毒液の容れ物は固定されている必要があります。お客様用のトイレにも手洗と消毒液が必要です。大きさや消毒液の固定に関しては従業員用の手洗いほど要件は厳しくありません。
また、防水の材質で、調理場内に食器を収容するための扉付きの収納棚が必要です。調理場の床・壁についても衛生の保持のため防水加工が必須という要件があります。天井は吹き抜けなどの配管剥き出しの施工だと、上にほこりが溜まって不衛生なため、フラットな作りが望まれます。ほかにも、調理場と客席の区画があいまいにならないよう、扉やスイングドアなどで仕切られている必要があります。逆に仕切られていれば、客席スペースの方は天井などが吹き抜けなどでも申請には影響ありません。審査で重要なのは、調理場の設備です。また、冷蔵庫には温度計を設置している必要があります。
2つ目に必要なのは『防火対象物使用開始届出書』です。こちらはお店を使用する7日前までに管轄内の消防署に提出します。その際に必要な書類は、防火対象物概要表・案内図(店舗周辺地図)・平面図・立面図・詳細図・断面図・展開図・室内仕上げ表及び建具表などになります。
3つ目に必要な届け出は、お店で火を使うための手続きとして『火を使用する設備等の設置届』を消防署に提出します。ガスコンロなどの火を使用する設備を設置する前に申請しなくてはなりません。
『防火管理者選任届』の届け出に関しては、提出時点で防火管理者の資格を持っている場合は、「防火管理者選(解)任届出書」を正副2部と「防火管理者証」を最寄りの消防署または消防出張所に提出します。提出時点で防火管理者の資格を持っていない場合は、防火管理者資格講習を受講して管理者資格を取得のあと、同様に「防火管理者選(解)任届出書」を正副2部と「防火管理者証」を最寄りの消防署または消防出張所に提出します。
『水質検査成績書』の提出先は保健所です。賃貸ビルの場合、大抵オーナーや管理会社が通常年に1回は行っているはずなので、「直近」の水質検査成績書を発行して貰い、保健所に提出します。水道直結の場合は提出の必要はありません。
『深夜酒類提供飲食店営業開始届出書』の届け出は店舗の所在地の警察署に、図面や様々な書類と共に提出します。未届けのまま無許可で営業すると罰則がありますので開店時までに許可を得るのを忘れないようにしましょう。
『防火管理者選任届』は、店舗に置ける顧客の収容人員が30人以上だと防火管理者を『選任』する必要です。また延床面積が300平方メートルを基準に、300平方メートル以上だと『甲種防火管理者』、300平方メートル未満だと『乙種防火管理者』と種類が変わってきます。ちなみに顧客の収容人数が30人未満の店舗の場合は、防火管理者資格保持者は必要ですが、届け出による『選任』の必要はありません。
『水質検査成績書』は水道直結の店舗の場合は必要ありませんが、お店の水道が、貯水槽を通ってきたり、井戸水だったりする場合に必要になります。賃貸ビルの場合、大抵オーナーや管理会社が既に行っているはずなので、「直近」の水質検査成績書が欲しいと頼んでみると出してくれます。
『深夜酒類提供飲食店営業開始届出書』は名前の通り、深夜12時以降にも営業して酒類を提供する店舗である旨の届け出は、営業開始の10日前まで店舗最寄りの警察署に申請する必要があります。もし『深夜酒類提供飲食店営業開始届出書』が見届けの状態で深夜0時以降にも酒類を提供した場合には、1年以下の懲役若しくは100万円以下の罰金又はこれの併科の罰則となります。『深夜酒類提供飲食店営業開始届出書』の許可を取っていたとしても、店側が『接待』にあたる行為をした場合は風俗営業になるため風営法違反となり2年以下の懲役若しくは200万円以下の罰金又はこれの併科の罰則が適用されたうえに、向こう5年間は新規に風俗営業の許可申請をすることができなくなりますので十分に注意をしてください。
飲食店経営において、違反した場合に罰則があるケースがいくつかあります。
まず代表的なものは『無許可営業』です。そもそもの開業の許可を取っていないのに営業をしている状態ですが、こうなってしまうのにもいくつかパターンがあります。
まず、はじめから営業許可を取っていないケース、これは論外ですが居抜きの店を借りてそのまま営業を開始してしまうなど知識が無いケースや、営業許可にも更新の必要があり、失効状態で営業してしまっていたケースなどもこれにあたります。許可を取得せずに営業を行った場合、食品衛生法や風俗営業法違反で、2年以下の懲役または200万円以下の罰金が課せられます。飲食店の無許可営業は、食中毒など市民生活に多大な影響を及ぼすおそれがあるため、罪の重い犯罪になります。一度この罪を犯すとその後2年間は飲食店の開店はできなくなります。
『名義貸し』という経営に関わりのない他人名義で開業許可を得て営業している場合は風俗営業法違反ですから、2年以下の懲役または200万円以下の罰金が課せられます。こちらもいくつかケースが分かれますが、何らかの事情があり本人が営業許可を取れない場合に他人名義を借りて許可を取ってもらうというケースです。本人が過去に重大違反を起こして、許可が下りない期間などに故意に行うケースが考えられますが、経営者が故人となり、配偶者などが営業許可証の更新などをせずそのまま営業を継続してしまっていた故意ではない知識不足のケースもあります。
深夜12時以降にも営業して酒類を提供する店舗である旨の届け出の『深夜酒類提供飲食店営業開始届出書』が未届けの状態で深夜0時以降にも酒類を提供した場合には、1年以下の懲役若しくは100万円以下の罰金又はこれの併科の罰則になります。また『深夜酒類提供飲食店営業開始届出書』の許可を取っていたとしても、店側が『接待』にあたる行為(一緒の座席で飲に話し相手をする、一緒に歌を歌うなど)をした場合は風俗営業になるため風営法違反となり営業停止はもちろん、営業停止のほか2年以下の懲役若しくは200万円以下の罰金又はこれの併科の罰則が適用されます。
食品衛生法や風営法の罰則・ペナルティのほかに、行政処分があり、指示→営業停止→営業許可の取消しの順に重い処分になります(罰則と併科)。営業許可の取り消しは、その後の営業が不可能になるので経営者にとって致命的な処分になることは十分に注意しておきましょう。
『調理師』の資格は飲食店の営業許可を取るのに特に必要ありません。味にこだわりがある店なら調理のプロを別に雇えば良いだけです。飲食店開業における経営者の役割は、あくまで『経営・運営』の遂行ですから、現場で調理を担当する調理師の資格はなくても開業には何ら問題ないのです。もちろん、調理師免許を持っていたほうが料理の安全性などの信頼を得られるなどの利点は大きいので、余裕があれば持っていたほうが良いでしょう。素人目には、飲食店の経営者なのに調理師免許がないことが不審に映るかもしれません。従業員を雇った際に、調理に関する指導をする場面などでも、調理師の資格がなければ説得力が薄れてしまう可能性もあります。ただ、調理師免許試験を受験するための要件を考慮すると、資格取得よりも経営に目を向けたほうが実りは大きいでしょう。
飲食店といっても業態はさまざまです。開業にあたってまず重要視されるのは顧客の安全です。顧客の安心・安全において何が重要かを考えれば、必要な資格について納得がいくはずです。業態によってはお酒がメインで食べ物は乾き物しか出さない店や、コーヒーなどの飲み物メインで食べ物の調理はしないというお店も飲食店として営業しています。重要視されるべきは、味・調理の部分ではなく安全衛生面、防火面ということです。そのため、必須資格は食品衛生管理者資格と防火管理者です。これらがそろわないと営業許可が出ません。前者は管轄の保健所に、後者は管轄の消防署に届け出を出します。
また、周辺地域の治安の面からも、深夜酒類提供飲食店営業開始届など、風営法関連の届け出は警察署に提出することになります。顧客の安心・安全を守るという考えを第一に、それにプラスして自分のこだわりの店を作っていくことが望ましいでしょう。
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