最終更新日:2023年11月10日
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「社長」という呼ばれ方に憧れを持つ人は多いでしょう。独立開業を目指すビジネスパーソンの大半は、社長として自分の会社を切り盛りしていきたいと考えています。しかし、社長のなか でも「雇われ社長は経営を行う立場のサラリーマン」に過ぎません。オーナー社長とは多くの面で違いがあり、経営において「制限がかけられている」立場だといえるでしょう。この記事では、雇われ社長とオーナー社長の違いを通して、独立開業の方法を解説していきます。
雇われ社長とオーナー社長の大きな違いが「解任の可能性」についてでしょう。オーナー社長の場合、会社の所有者であり、自分の意思に反して解任されるようなことはまずありません。
たとえば、株式会社のオーナー社長であれば会社の株の大半を所有するなどして、会社の経営について絶大な権利を保持しています。オーナー社長が解任されるとすれば「法律に違反する行為を働いた」「株主や社員への背任行為があった」など、よほど重大な過ちを犯したときに限ります。
しかし、雇われ社長は肩書的には社長ですが、会社の所有者とはいえません。雇われ社長の上には別にオーナーがいたり、親会社があったりします。会社の経営についても絶対的な権限はなく、経営体制によっては他の重役のほうが、社長以上に発言力を持っているケースも珍しくありません。何か経営上の問題がある場合、雇われ社長は解任させられることになります。
株主総会などによる解任決議で辞める結果になるのも、雇われ社長ゆえの特徴です。雇われ社長は自分の辞める時期を自分で決められないことが往々にして出てきます。
社長本人は「まだまだ頑張りたい」と思っていても、周囲の賛同が得られなければあっさりと役職を明け渡す羽目になるでしょう。解任決議は、基本的に大株主の意向が優先されるため、社長は自分よりも所有株の多い人間に逆らえません。どんなに内心で「理不尽な決定」だと感じていても、抵抗は認められないでしょう。
そして、雇われ社長が解任されるとき、「自分の責任」と限らないのもつらいポイントです。社長の手腕に特に問題がなかったとしても、オーナーのミスによって大きな損害が出たとします。その場合、会社は責任の所在をはっきりとさせて、株主や取引先を納得させなければいけません。
そこで責任を被る形で雇われ社長が切られるのはよくある流れです。誠心誠意をこめて会社に尽くしてきても、最後には簡単に解任させられてしまう雇われ社長は「儚い存在」といえるでしょう。
オーナー社長と雇われ社長では、同じ規模の会社を経営していたとしても収入に差が生まれがちです。なぜなら、オーナー社長には「自分の取り分を自分で決められる」権限があるからです。
オーナー社長には会社の利益配分に対して最終決定を下すことが認められています。「利益のうち何割を賞与にまわすか」「株主への配当金はどうするか」などの判断は、オーナー社長を通さなければ下せません。当然、自分自身への利益配分についても自由に調整できます。
もちろん、社員や株主の反感を買わないように節度こそ重要ですが、それでも誰かに雇われているよりははるかに多い額を手にすることは可能でしょう。また、株式会社のオーナー社長は持ち株もたくさんあるので、配当金によっても高収入を得られます。
しかし、雇われ社長の場合は、根本的にサラリーマンです。上にはオーナーが要るので、自分の裁量だけでは自分の収入を決められません。最初にオーナーから提示された給料額から変動がないこともありえます。どんなに会社が儲けを出そうとも、自身の給料に還元されにくいのが雇われ社長の宿命です。
一方で、持ち株の多い役員などは、会社が好調なら配当金も上がるので、雇われ社長よりも収入が高くなりがちです。「社長になれば裕福になれる」と幻想を抱いていた人は、雇われ社長になってから打ち砕かれてしまってもおかしくないでしょう。
もちろん、雇われ社長といえども、配当金によって収入は生まれます。しかし、会社の株を所持できるのは社長として雇われている間だけで、解任されたら自身の持ち株以外は残らないのが一般的です。
そのうえ、一度解任されてしまうと「無職」状態となって、他会社に就職口を求めなければいけない「元」雇われ社長も少なくないのです。オーナー社長との間には、待遇の格差が広がっているといえるでしょう。いざ雇われ社長になってみると、「社員時代のほうが収入面の不安が少なかった」という事態も起こっています。
雇われ社長のすべてが悪条件に貫かれているわけではありません。雇われ社長として働くメリットもいくつか挙げられます。
まず、収入が成績次第では上がる可能性があります。多くの企業では、能力や実績に応じて人事評価が上がり、給料に反映されます。雇われ社長でも例外ではなく、オーナーや株主に実力が認められれば年棒アップも実現するでしょう。
また、経費がある程度なら自由で使えるのもメリットです。交通費などについての心配がなくなりますし、「接待費」といった名目で高級店に足を運ぶこともできます。出社や退社の時間、休暇などを自由に決められるのも社長の特権でしょう。平日に自分の都合で休んでも、大きな反対にはあいません。仕事に支障さえきたさなければ、社員も納得してくれます。
何よりも、経営者としての実務経験を積めるのは大きな財産です。自分の経営への思いをある程度形にできるのは「雇われ」や「オーナー」に関係なく、社長だけに許された行為です。長年「こんな会社を作ってみたい」「社員にこんなやりがいを与えたい」と考えてきたビジョンがあるなら、雇われ社長の立場でも充実感は味わえるでしょう。
また、「会社のトップに立った」人を他の業界も放ってはおけません。将来的に社長の立場を退いても、コンサルタントや作家、講師といった職業で、セカンドキャリアを築けます。
しかし、これらのメリットは雇われ社長でもオーナー社長でも同等に得られる内容です。むしろ、「オーナー社長にはあてはまらず、雇われ社長だけに得られるメリット」となると、ほとんど見当たらないのが現実です。
あえて言うなら「雇われ社長という立場を経験できた点」ですが、オーナー社長としての経験と比べて、より実りがある内容とは断言できません。雇われ社長が一般社員よりは優遇されているのは確かです。それでも「給料」や「やりがい」などが一般社員からかけ離れて向上するかというと、微妙なところでしょう。
雇われ社長は経営者という立場上、雇用保険に入れません。そのため、退職しても失業保険がもらえないのが普通です。
しかし、退職した後で次の就職先を探す元社長は少なくありませんし、その間の生活費も必要です。雇われ社長の立場では、転職期間中をしのげるほど十分な貯金ができていない可能性も考えられます。その結果、「妥協して条件の悪い企業にすぐ再就職を決めてしまう」など、普通のサラリーマンが犯しがちな転職の失敗をする人も出てくるでしょう。退職後の生活を守るための失業保険がないのは痛手だといえます。
また、雇われ社長は株主にもオーナーにも説明責任を果たす立場にあります。会社の方針、経営戦略、トラブルへの対応など、雇われ社長が「最終判断」を下せる案件はごくわずかです。
ときには、雇われ社長の意見とは異なる決定にも従わなくてはいけません。その意味で、雇われ社長は「責任だけが重くて一サラリーマンと大差はないポジション」になってしまいがちです。
その一方で、オーナーや株主にとって都合の悪い事件については、雇われ社長が矢面に立たされます。たとえば、消費者や社員などから訴訟を起こされたとしたら、代表取締である社長が対応します。世間一般にはあたかも被告側の中心人物のように取り上げられますし、個人のイメージは落ちてしまうでしょう。それでいて、オーナーや株主の名前は出さずに裁判を進めなければいけないので、雇われ社長の心労は膨らむばかりです。
雇われ社長は立場が不安定な割に、オーナー社長と同等の責任を持たされます。事件があったとき、会社の楯となるのはオーナー社長も変わりがありません。
しかし、オーナー社長は自分の意志で会社のために動くので、モチベーションが違います。雇われ社長は「嫌々ながら」世間と戦わざるをえない場面もあるので、後味が悪くなりがちです。それでいて、オーナーや株主からトラブル対応を評価してもらえるとは限りません。「労力に応じただけの報いがない」と嘆く雇われ社長もいるでしょう。
オーナー社長が業績によって金銭的損失を受けるのは、致し方ない仕組みです。オーナー社長は会社の所有者であり、最高責任者です。自由に経営できるかわりに、リスクを背負うのは当然でしょう。
一方、普通のサラリーマンはオーナー社長ほどの収入は得られません。ただし、会社の業績によって立場が悪くなる人も少数です。サラリーマンはあくまでも「上の指示に従って仕事をしている」状態であり、会社の責任は常に経営陣が負うべきだといえるでしょう。
ところが、雇われ社長になると「経営についてほとんど自由が認められない」立場にもかかわらず、業績についての責任は取らされるリスクを押しつけられます。ここでいう「責任」とは、「解任」だけに留まりません。
雇われ社長のなかには、就任と同時に会社の連帯保証人として記名させられている人がいます。こうした社長は、もしも会社が借金のある状態で倒産したら、連帯保証人として借金の返済をしなければいけません。会社全体で返せなかった借金を1人で抱えて生きていかねばいけなくなるのです。
悪質なオーナーになると、会社の終焉が見えてきたところで適当な人間を雇われ社長に任命し、連帯保証人に仕立て上げてから倒産します。責任転嫁のために社長にされた人は、経営者としての経験も積めないまま借金だけが残ってしまいます。
こうしたリスクを軽減させるには、とにもかくにも健全な経営をすることでしょう。それでも、社長自身が意思決定できる立場にない会社なら、リスクだけは大きくん膨らんでいきます。
たとえば、オーナーの意見を優先して動かなければならない会社はリスクだけが大きく膨らみがちです。社長自身で経営の実態を把握する前に、会社が倒産してしまうケースも珍しくありません。
雇われ社長就任の話が来ても、すぐに了承するのは危険です。「なぜ自分が頼まれたのか」を冷静に考えて、会社の状況をしっかり調べてから返事をするようにしましょう。
オーナー社長よりも立場が弱くなりがちな雇われ社長ですが、対策もあります。雇われ社長になることを打診されたら、発行する自社の株をどれくらい保有させてもらえるのかを確認しましょう。株についてはオーナーからできるだけたくさんの株を購入し、保有するようにすると、雇われ社長でも立場を安定させられます。
どうして持ち株が大切なのかというと、経営についての決定権は「持ち株の多さ」で決まるからです。株式会社の場合、経営方針は「株主総会」と呼ばれる会議で決められます。株主総会には、株主のなかでも特に多くの株を所有している「大株主」が出席し、さまざまな決議を行っていきます。
社長やオーナーも株主総会では「一株主」の立場から発言し、決議のために票を投じます。最終的にもっとも多くの支持を得た方針が決定事項となり、経営者は従わなくてはいけません。
ただし、株主総会が特殊な場なのは、決議が「多数決」によって下されるのではなく「持ち株」によって下される点です。たとえば、株式の5パーセントを所有している株主10人が「A案」に票を投じたとします。しかし、株式の51パーセントを持っている株主1人が「B案」に票を投じれば、「10票対1票」ではなく「50パーセント対51パーセント」と集計されるため、B案で決議が下されます。株主総会で自分の意見を通すには、とにかく多くの株を所有することが絶対条件なのです。
ちなみに、「過半数51パーセントを保有すれば必ず株主総会で意見を通せる」と考える人もいますが、より重要な話し合いを行う「特別決議」では、方針の決定に3分の2以上の承認が必要です。つまり、株式の67パーセントを買い占めないと、社長の立場は安全といえません。持ち株が多くなればなるほど、社長は「会社を所有している状態」に近づけます。社長に賛同してくれている株主なら株を譲ってくれることも珍しくないので、「誰がどれだけの株を持っているか」をリサーチし、株主総会へとそなえましょう。
雇われ社長について「お飾り」「名目だけの社長」といった辛辣な意見も少なくありません。雇われ社長は往々にして、自分の意思を聞き入れてもらえないまま、オーナーの言いなりになって働かなくてはいけません。
しかし、多くの人は「社長になるからには自分の力で道を切り開いてみたい」と願っているはずです。そこで、社長就任を打診されたら「事業の方針決定に自身も参加させてもらえるのか」という点を事前に確認しましょう。
経営方針がどのように決定されるのかを知る立場にないと、雇われ社長はそれこそ「お飾り」になってしまいかねません。会社の実権は大株主やオーナーが握っているまま、面倒な手続きだけを任されてしまいます。
しかも、自分が知らないところで決められた経営方針で生じた失敗すらも、責任だけ取らされるのであれば「やりがい」はほとんど感じられないでしょう。
こうした「お飾りの社長」が生まれてしまう背景にはオーナーとの関係性が挙げられます。オーナーと良好な関係を築けていないとき、社長は立場をないがしろにされてしまいがちです。
オーナーが現役で、経営についても絶大な発言力を残している会社でも雇われ社長の権限は弱くなります。役員や大株主もオーナーに近しい人間で固められているため、社長の味方はほとんど見つかりません。オーナーの意見が無条件で通ってしまう土壌が築かれているために、社長といえども場の空気を覆すのは難しいでしょう。
また、オーナーが「会社の成長」に興味を失くしてしまっている会社でも、雇われ社長の発言は通りにくくなります。特に、オーナーが「別事業の展開を考えている」「事業の縮小化を図ろうとしている」状態で社長になると厄介です。
「もっと会社を大きくしたい」という社長のモチベーションと、オーナーの方針は一致しません。それでも、社内の立場はオーナーが上なので社長の主張は退けられるでしょう。社長が意思決定を行えるようにするには、オーナーが会社にどんな感情を抱いているのかも知っておくのが大切です。
雇われ社長として就任を打診されたとき、オーナー側にはネガティブな狙いがあるとも考えられます。頻発しているのは資金面のトラブルなので、社長を引き受けるなら「資金の流れを確認させてもらえるかどうか」を把握しておきましょう。
そもそも「雇われ社長」とは所有している株式が0か、極端に低いにもかかわらず社長になった状態です。つまり、オーナーは社長に会社の経営を強く期待はしていませんし、実際の業務は自ら行うつもりでいるといえます。
それなら、どうして「雇われ社長が必要」になっているのかというと、「オーナー名義では資金が調達できなくなっている可能性」があるからです。たとえば、オーナーが過去に会社を倒産させていたり、債務整理を行ったりしていると信用情報に傷が入ってしまいます。
その結果、オーナー名義では金融機関から融資をしてもらえません。仕方がないので、別に形ばかりの経営者を立てて、融資を引き出そうとします。これが、「雇われ社長が生まれる一因」です。
しかし、オーナーの信用情報に問題があるケースでも社長以下の社員に十分な説明がなされるとは限りません。雇われ社長は自力でオーナーの経歴を調べ、「怪しい点がないか」「自分が利用されているだけではないのか」を見抜きましょう。
過去に資金で失敗しているオーナーは、「浪費癖がある」「金銭感覚がずれている」などの欠点を抱えている恐れがあります。そんなオーナーが相変わらず資金調達を続けているのでは、会社は安泰といえません。
もっと厄介なことに、「資金の調達方法が不正」だったとき、雇われ社長の名義で融資を受けていたとしたら責任を押しつけられてしまいます。オーナーや株主の不正行為に気づかないまま社長を続けていても、そこにはリスクしかありません。
問題が発覚しても社長の立場から弁明ができず、オーナーたちが逃げおおせてしまいます。少しでもお金の動きに不審な点があれば深く追求しましょう。そして、オーナー側から納得できる説明がない限り、雇われでの社長就任は避けるのが得策です。
雇われ社長となることをいったん引き受けたものの、権限がなく、責任だけがのしかかってくるような場合には自ら雇われ社長を辞めたいと思うことがあるかもしれません。また、職務のストレスから心身の健康を害し、ストレスが限界まで蓄積する人もいるでしょう。雇われ社長としての立場が重荷なら、すぐに辞めるのがおすすめです。
しかし、雇われ社長は建前上、いつでも辞められる条件になっていますが、現実には「契約内容」によって役目が強制されています。雇われ社長は契約期間中、自らの意思で職務を放棄することが困難です。どうしても契約期間内に辞めたいときは株主総会を開催し、株主からの同意を得る必要があります。そして、後任の社長を選定し、晴れて社長職を退けます。勝手に辞めてしまうと「任務懈怠責任」を問われ、自分が訴えられてもおかしくありません。
ただし、「雇われ社長の名義でないと資金調達ができない」などの事情があるとき、オーナーは株主総会の開催を拒む恐れが出てきます。すると、後任の社長が決まらないために雇われ社長をずっと続けなくてはいけません。こうなってしまうと、現社長のストレスは強くなっていく一方です。
また、「辞任の意向」を表明した時点でオーナーとの関係も悪化しやすいため、社長としての発言力が弱まったまま会社に居残ることになります。次のキャリアに向かうための貴重な時間を、雇われ社長としてすり減らさなければならないのです。
こうした事態を防ぐために、オーナーが株主総会の開催を拒んだなら、臨時の後任者を裁判所によって選定してもらう方法が設けられています。現社長は後任者相手に業務の引継ぎを行い、完了した時点で任務を解かれます。
ただし、最終的には社長を辞められるとしても「辞めるまでに会社に残って仕事を続けなくてはいけない期間がある」のは変わりありません。そもそも、雇われ社長になるデメリットを十分に考慮し、すぐに辞任したくなるような立場に自分を追いやらないようにしましょう。
雇われ社長には、「自分で資金調達や下積み時代を経なくても就任できる」という面があるのは事実です。しかし、いざ就任してみると想像していた社長像とのギャップにがっかりする人は少なくありません。
実権はオーナーや他の役員が握っており、添え物のような扱いを受ける社長もいます。しかも、問題が起こったときだけ社長のせいにされ、張本人は難を逃れるケースも目立ちます。
そもそも社長とは、簡単に就任できるような役職ではありません。実力や経歴がともなわないまま雇われ社長になっても、他人に利用されるだけで終ってしまいがちです。
雇われ社長もオーナー社長も会社に対して責任を持たなければならず、万が一のときは身を削る覚悟が必要です。いずれも、会社との運命共同体として職務をまっとうするよう定められているのは変わりがありません。
どうせ社長になるなら、自分の所有物として会社を持ち、自分の意思決定で経営できるオーナー社長を目指したほうが賢明です。また、金銭面や将来のリスクを考えてもオーナー社長のほうがポジティブな要素が多く、充実した毎日を送れるでしょう。
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